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東京地方裁判所 昭和27年(ワ)6386号 判決

原告 山之手証券株式会社

被告 片田清子

一、主  文

被告は原告に対し、東京都中央区日本橋浪花町八番の十宅地七十坪二合二勺の賃料として、昭和二十五年十一月二十九日以降昭和二十七年八月一日まで一ケ月一坪につき金七十五円、昭和二十七年八月二日以降昭和二十九年四月三十日まで一ケ月一坪につき金百三十五円の割合による金銭を支払わなければならない。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし他の一を被告の負担とする。

二、事  実

第一、双方の申立

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し主文記載土地の賃料として昭和二十五年十一月二十九日以降昭和二十七年八月一日まで一ケ月一坪につき金百六十五円、昭和二十七年八月二日以降昭和二十九年四月三十日まで一ケ月一坪につき金二百二十円の割合による金銭を支払わなければならない。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求めた。

第二、原告の主張

(一)  主文記載の土地はもと清水栄蔵の所有であり清水はこれを被告に対し建物所有の目的で賃貸した。昭和二十五年九月清水は右土地を臼井長治、君塚春吉に売却し臼井は十分の九、君塚は十分の一の各持分で共有していた。昭和二十七年五月一日君塚は右の持分を原告に譲渡し、同年六月十日臼井は右持分を原告に譲渡し、本件土地は原告の単独所有となつた。そして右移転に伴い臼井、君塚、原告は清水の賃貸人たる地位を承継し結局原告一人が貸主となつた。

(二)  被告は本件地上に家屋を所有し待合営業をしているので、昭和二十五年七月地代家賃統制令の改正により、本件土地賃料の統制は解除せられた。本件土地については追々公租公課か増額せられ、地価が昂騰し、当時の賃料一ケ月一坪につき約金三十六円は不相当となつたので、昭和二十五年十一月二十八日到達の郵便を以て、貸主たりし臼井及び君塚は被告に対し、同年九月二十六日よりの賃料を一ケ月一坪につき金百六十五円に値上する旨を通知し、又昭和二十七年八月一日到達の郵便を以て原告は被告に対し、同年八月からの賃料を一ケ月一坪につき金二百二十円に増額する旨を通知し、これにより賃料は各右の額に増額せられた。

(三)  臼井長治、君塚春吉は昭和二十七年十月始頃、自己等の被告に対する昭和二十五年十月一日以降同二十七年六月九日までの賃料債権を原告に譲渡し、同二十七年十月十一日到達の郵便を以て被告に対しその旨の通知をした。

(四)  よつて昭和二十五年十一月二十九日以降の増額賃料の支払を求めるため本訴に及ぶ。

(五)  仮に昭和二十七年八月以降の賃料を一ケ月一坪二百二十円とすることが過当であるとしても、その後公租公課の増額地価の値上りは甚しいから、少くも昭和二十八年十二月以降については、一ケ月一坪二百二十円えの値上は認めらるべきである。

第三、被告の主張

(い)  原告主張(一)(三)の事実は認める。

(ろ)  原告主張(二)の事実中原告主張の値上額が正当なこと及び値上が有効なことは否定する。(二)の事実中、その他の点は認める。

(は)  値上は賃料を一ケ月一坪につき金七十二円六十銭とするのが相当であるからその限度でのみ原告の主張は正当である。

第四、証拠<省略>

三、理  由

第一、相当地代の算定基準

(一)  建物所有目的で地主が新に更地を貸す場合賃料の統制がないとすればその相当地代は如何にして算定すべきか、それは(A)地主の投下資本に対する適正利潤と(B)税金その他の管理費用の和によると考える。地主の投下資本は貸す時の相当売買価格であるが、若し賃貸に当り権利金を借主より徴するとすれば、相当売買価格より権利金を控除する。適正利潤率は年六分を相当とすべく、税金その他の管理費用は固定資産税の一・二倍と見るべき(甲第六号証参照)であろう。

(二)  従来よりの貸地の賃料が低額に過ぎ値上をする場合その相当値上額を如何にして算定するか。本件で問題となつている昭和二十五年より昭和二十七年に至る間においては地価は凡そ二倍に騰貴(甲第十五号証)しており、かかる異常時において、値上率は、値上時において新に賃貸し右(一)によつて算定せられる地代に比し低額たるべきは勿論であつて、右(一)によつて算定せられる地代の七割を以て相当地代とすべきものと考える。

第二、本件における値上

本件の東京都中央区日本橋浪花町八番の十宅地七十坪二合二勺について貸主にして所有者たる原告の前主及び原告は借主たる被告に対し昭和二十五年十一月二十八日従前の賃料一坪につき一ケ月約金三十六円を金百六十五円に、昭和二十七年八月一日同じく金二百二十円に値上すべきことを通知した。これによつて如何なる地代増額がなされたかを右第一の基準によつて算定する。

本件土地を更地としてその相当売買価格は昭和二十五年十一月当時一坪につき金二万五千円、昭和二十七年八月当時金五万円であつたと認定する(甲第六号証、甲第十四号証評価理由(1) 、甲第十五号証第三表)。現在東京都内の市街地において借地権を設定する場合地価の八割を借地権利金として地主に支払う程度が通常であつてかかる場合右第一の算定基準による地主の投下資本は地価の二割となり、借主は土地につき八割の実質上の権利を有するものと考えるべきである。

本件土地について被告が借地権の設定につき借地権利金を支払つたか否か又支払つたとすればその額如何は不明であるが、かかる場合、及び借主が借地権利金を支払わないか或は少額の権利金を支払つてもその借地権設定が古い場合には、借主は土地につき右八割の半額たる四割につき実質上の権利を有すると考えるべく、従つてこの場合には右第一の算定基準による地主の投下資本は地価の六割と見るべきである。故に本件につき地主の投下資本は昭和二十五年十一月当時一坪につき金一万五千円昭和二十七年八月当時金三万円であり、適正利潤(その率は前示の如く年六分)は従つて一ケ月一坪につき昭和二十五年十一月当時金七十五円、昭和二十七年八月当時金百五十円である。本件土地につき、税金その他の管理費用(固定資産税の一・二倍)は昭和二十五年において一ケ月一坪につき金三十一円六十八銭(甲六号証)、昭和二十七年においては金四十円三十二銭(甲第十一号証の一、甲第六号証)となるから右第一の(一)による新に賃貸する場合の相当地代は、昭和二十五年十一月末頃金百六円六十八銭、昭和二十七年八月始頃金百九十円三十二銭となり、従つて第一の(二)による値上賃料相当額は昭和二十五年十一月末頃金七十四円六十七銭、昭和二十七年八月始頃金百三十三円二十二銭となる。

よつて、本件値上の請求により地代は昭和二十五年十一月二十八日以降一ケ月一坪につき金七十五円、昭和二十七年八月一日以降一ケ月一坪につき金百三十五円(当時の地代上昇傾向を加味して端数切上)に変更せられたものと認める。

第三、原告は事実摘示第二の(五)において昭和二十八年十二月以降の賃料について賃料値上を主張しているが賃料増額は増額請求のあつたとき(本件でいえば昭和二十五年十一月二十八日及び昭和二十七年八月一日)の相当賃料の額までなされるに止りその後の或る日時の相当額に増額せられるものではないから右の主張は失当である。昭和二十八年十二月当時の相当額に値上を欲するならばその当時に値上の請求をする外はない。

第四、よつて、原告の請求を一部認容し主文の通り判決する。

(裁判官 磯村義利)

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